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これまでの経緯

 「武富士」事件を追及するジャーナリストが「2ちゃんねる」で名誉を傷つけられたとして、掲示板管理者に発信者情報の開示を求めた訴訟で、東京地裁は7日、書き込み内容を「名誉棄損」と認定し、IPアドレスなどの開示を命じる判決を言い渡した。
 翌日、私は「ネット掲示板に発信者情報開示を命じる法的根拠は?」という題名の記事でこのことを紹介した。
 この判決について、例えば朝日新聞(アサヒ・コム)は次のように報道した。

『菊池洋一裁判長は、ネット上の権利侵害などに対応するために制定されたプロバイダー法に基づき、中傷発言を書いた発信者のIPアドレスと発信日時の開示を命じた』

 これはあたかもプロバイダ責任法で発信者情報の開示を命じることができるような印象を読者に与えるものだが、私が以前論じたように、同法自体はプロバイダにいかなる発信者情報の開示も強制していない。
 そこで私は【論評】のなかで『同法は発信者情報開示の根拠法にはなり得ない』と書いて、「朝日」などの報道を批判した。
 その後、私の記事に対して次のような批判のコメントが書き込まれた。

『「名誉毀損」は、プロバイダ責任法4条の「権利が侵害された」に該当すると裁判所が判断した事実認定であり、裁判所が2ちゃんねるに対して山岡氏等への情報開示を命じる判決を言い渡した法的根拠が「プロバイダ責任法」にあることは、条文を忠実に解釈すれば明らかですね』

 これに対し、私は批判者に、条文上、プロバイダ責任法自身がプロバイダに発信者情報の開示を強制しているのかと問いただした。しかし、その後の議論は全くかみ合わず、批判者は、プロバイダ責任法と発信者情報開示命令との関係を、憲法17条(国や公共団体に対する賠償請求権の規定)と国家賠償法との関係とのアナロジーで語ることまでして、自説の正当化を図ってきた。
 これは荒唐無稽だと私は思った。プロバイダ責任法が表現の自由を規制するものになりかねないのに対し、憲法は表現の自由も含む国民の自由・権利を保障するものだからだ。これは「根拠」云々以前の問題だが、「貧乏暇なし」の私は『単なるこじつけ。それ以上のコメントは不可能』と簡単にあしらっておいた。
 ところが批判者はなおもしつこく書き込みを続け、『憲法17条に「国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」と書いてあっても、国又は公共団体は賠償に応じなくていいことになるのですね』と私を攻撃してきた。
 プロバイダ責任法に関して私が批判を受けるだけならまだよい。ところが、話が「国倍」にまで及び、国倍訴訟の関係者にまで影響を及ぼすおそれがでてきた。(私は国倍訴訟の支援活動に関与している。)
 この時点で、この人物の書き込みを今後規制するか思案していたところ、私が親しくしており、なおかつ信頼しているある弁護士から、当該記事とコメントについての意見が述べられたメールが届いた。

 8日の読売新聞(ヨミウリ・オンライン)によると、消費者金融大手「武富士」の疑惑を報じたジャーナリストの山岡俊介氏、寺沢有氏らが、インターネットの電子掲示板「2ちゃんねる」で名誉を傷つけられたとして、掲示板管理者に発信者情報の開示を求めた訴訟で、東京地裁(菊池洋一裁判長)は7日、書き込み内容を「名誉棄損」と認定し、IPアドレスなどの開示を命じる判決を言い渡した。(該当記事

【論評】
 マスコミはプロバイダ責任法に飛びついて発信者情報の開示と結びつけているが、同法は発信者情報開示の根拠法にはなり得ない。
 私が以前論じたように、同法はプロバイダにいかなる発信者情報の開示も強制していないからだ。同法はただ、被害者がプロバイダに対して権利の侵害にかかわる発信者情報の開示を請求することができ(第4条1項)、プロバイダは請求があったときに、発信者に開示するかどうか意見を聞かなければならない(同2項)としているだけだ。
 今回の場合、発信者情報の開示を命じる法的根拠はあくまでも民法上の不法行為(名誉毀損)に求められる。「読売」の記事は確かに事実としてこのことに触れた。ところが朝日新聞時事通信は触れずじまい。読者を馬鹿にしているとともに、総務省の思惑に乗っかっている。
【参考】
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律〔プロバイダ責任法〕の概要(総務省)-ここから法律(PDF形式)のリンクがある。
【「辺境通信」の関連記事】
東京地裁、2ちゃんねるの発信者情報開示命じる仮処分 武富士疑惑追及ジャーナリストが申し立て

【追記】
 「朝日」に関しては、記事全体について「読者を馬鹿にしている」とまでいうのは言い過ぎだったかもしれない。
 確かに、プロバイダ責任法にばかり目を向けさせたことについてはそのとおりなのだが、あの記事には別の重要な情報が載っていた。
『同地裁は4月に、寺沢氏らの申し立てを受け、発信者情報の開示を管理人に命じる仮処分決定を出したが、寺沢氏によると、その後も一切、管理人から情報が開示されていないという』
 警察には強制されなくても情報を出すのに(関連記事)、今回の件では「超強硬」(笑)な態度で出さないのには、何か理由でもあるのかな? ちなみに日本の刑法では、脅迫罪より名誉毀損罪のほうが刑が重い。

 27日の読売新聞などによると、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」に3月27日、「中国大使館を爆破する」と書き込まれたいたずらに対し、警視庁公安部が脅迫容疑で、通信記録を差し押さえるなどの強制捜査に乗り出しているという。
 同紙が警察から得たとされる情報によると、3月27日午後3時半ごろ、2ちゃんねるに「明日日曜日、中国大使館を爆破します!」との内容の書き込みがあった。
 公安部と麻布署は脅迫の疑いで捜査を開始。2ちゃんねるの管理人に情報提供を求めて、発信者が使ったプロバイダを割り出し、差し押さえ令状を取って、通信記録を差し押さえたという。
該当記事(ヨミウリ・オンライン)

【論評】 このニュースの抑えどころは、差し押さえ令状が発行されたのは2ちゃんねるに対してではない、という点だ。つまり、2ちゃんねるは情報提供に応じる義務はなかったわけだ。
 以前、武富士問題を追及するジャーナリストの寺沢有氏らが2ちゃんねるに発信者情報の開示を求めた仮処分申請を裁判所が認めたというニュースを紹介したが、共同通信によれば、このときは2ちゃんねる側が口頭弁論に出廷せず審理が滞り、寺沢氏は「通信記録の保存期間が過ぎて消去されるまで、訴訟を引き延ばしているとしか考えられない対応だった」と話したという。
 このときと今回とでは対応が随分違う。2ちゃんねるは警察に弱いのか?
 電気通信事業法違反の罪に問われた武井保雄・武富士前会長の有名な言葉に、「右翼はヤクザに弱い。ヤクザは警察に弱い。警察は右翼に弱い」というのがあった。もし「2ちゃんねるが警察に弱い」という公式が成り立つとして、ある固有名詞を武井公式の「ヤクザ」に代入してみると、興味深い結果が得られる。

 「週刊金曜日」(4月23日号)や辺境通信の調査によれば、日本経済新聞社のウェブサイト「NIKKEI NET」に、イラクでの日本人人質事件で最初に拘束され、解放された3人の住所が、一時期掲載されていた。
 掲載されていた期間は4月15日のいつか1時間とみられる。
 「週刊金曜日」が3人の家族の代理人弁護士に取材した。弁護士は、3人に対する嫌がらせが助長されたのは、「NIKKEI NET」による掲載も影響しているとみている。
 日本経済新聞社の社長室は「週刊金曜日」の取材に対して、19日付で「国民の関心が非常に高いことから、住所も含めネット上で伝えました。その後、三人に対して国内に様々な感情があることなどを考え、一時間後に住所を削除しました。ご家族にも理解を得るため、順次ご連絡しています」などと回答したという。
 一方、読売新聞は、「3人の住所がインターネットの掲示板に掲載されたため、札幌法務局が掲示板の管理者に削除を依頼していた」と報道した(該当記事、22日)。
 読売新聞が法務省人権擁護局に取材したところによると、3人の住所がネットに掲載されたのは解放後の16日。3人の自宅に大量に中傷の手紙が送られてきたため、相談を受けた弁護士が届け出たという。
 しかし、以上の情報を総合すれば、「NIKKEI NET」の掲載がネットに先んじていたことになり、ネットに掲載された3人の住所の直接の情報源が「NIKKEI NET」であった疑いが強い。

【この記事は、4月9日付の「辺境の旅の記録」に掲載されたものです】
 4月9日の朝日新聞(アサヒ・コム)によると、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」で中傷する発言を掲載されたとして、ジャーナリスト3人が、2ちゃんねるの管理人に発信者情報の開示を求めた仮処分申請について、東京地裁(平田晃史裁判官)は9日、開示を命じる仮処分を出した。
 申し立てていたのは、ジャーナリストの寺沢有氏や山岡俊介氏ら。山岡氏らが昨年、武富士の疑惑について雑誌に記事を書いたところ、これらの記事に関連する中傷発言が相次いで2ちゃんねるに書き込まれたという。
関連リンク
アサヒ・コムの該当記事

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