人権とメディア: 2005年11月アーカイブ

 民放連(日本民間放送連盟、会長=日枝久・フジテレビ会長)は18日、警察による被害者の氏名の発表は実名を原則とするよう内閣府に申し入れた。

 政府の犯罪被害者等施策推進会議は8月9日、「犯罪被害者等基本計画案(骨子)」を決定し、意見を募集していた。この期間中の9月5日、民放連は今回と同趣旨の意見を提出しており、今回は改めての申し入れとなる。

 また日本新聞協会が「計画案」に対して10月21日に提出した意見書も、「被害者は実名で発表されなければならない、とわれわれは考える」という内容で、民放連と足並みをそろえている。

 この「計画案」のうち、マスコミが問題としているのは次の部分だ。

2.安全の確保(基本法第15条関係)
[今後講じていく施策]
(2)犯罪被害者等に関する情報の保護
エ 警察による被害者の実名発表、匿名発表について、犯罪被害者等の匿名発表を望む意見と、マスコミによる報道の自由、国民の知る権利を理由とする実名発表に対する要望を踏まえ、プライバシーの保護、発表することの公益性等の事情を総合的に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく。【警察庁】

 民放連は9月5日付の意見で「われわれは、被害者が常に実名で報道されるべきだと主張しているわけではない。警察の発表は実名を原則とし、実際の報道で実名とするか匿名とするかの判断を報道機関の自主性・自律性に任せることを求めている」と主張しているが、事実上、マスコミはほとんど被害者を実名で報道している。

 たとえば被害者が子供の場合には原則匿名として、被害者側に特段の要望がある場合に限り実名を出すという報道基準があってもよいはずだ。しかしマスコミはどういう場合にも原則実名報道で、実名にした理由・基準も読者・視聴者に示さないのが現状だ。これでは、報道機関側に「犯罪被害者等」の実名・匿名をコントロールする能力がないと一般的にみられてもおかしくない。

 そもそも、今回の意見や申し入れは、マスコミが権力者に《犯罪被害者の実名を発表してください》と頭を下げる構図になっていないか。

 当局に指摘されたからその都度申し開きをするのではなく、マスコミに不満のある犯罪被害者の声を聞き、実名報道の是非を含めた具体的な報道倫理基準を自律的に定め、実施していく。そうしなければ、《当局が実名を出すかどうかと報道機関が実名で報道するかどうかは別問題》《実名匿名の基準を当局が決めるべきものではない》というメディア側の言い分は説得力を持たないだろう。

 犯罪被害者に対する報道被害は、随分前から問題になっていたはずだ。「神戸児童連続殺傷事件」(97年)では、被害女児の母親の手記が出版されて、マスコミによる取材被害の実態が明らかにされたが、その後も取材被害はあとを絶たず、なかには「桶川事件」(99年)のように、テレビのワイドショーなどが、あたかも被害者にも落ち度があったのではないかいわんばかりに被害者を中傷した事例もあった。

 「桶川事件」では、テレビ朝日系「ザ・スクープ」などの報道がきっかけで、被害者像をゆがめたのが他ならぬ警察だったことが一般的に知られるようになった。しかしそれでも、マスコミが警察情報を鵜呑みにして垂れ流したのが報道被害につながったという事実が消えたわけではない。

【関連サイト】
民放連
日本新聞協会
内閣府・犯罪被害者等施策トップページ

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